クローゼットの前で十五分立っていた彼
出かける支度を待っていた朝のことです。
彼は、服の前で本当に十五分立っていました。
何枚も引っ張り出しては、また戻す。
ハンガーが鳴る音が、リビングまで聞こえてくる。
ようやく出てきたときに着ていたのは、いつもと同じシャツでした。
あれだけ迷って、結局それ。
彼のクローゼットは、服でぎゅうぎゅうでした。
ハンガーが押し合って、袖が全部つぶれている。
新しいものを毎月のように買っていたのは知っています。
それなのに、着るものは決まっていた。
(服が多いのに、選べてないんだ…)
その矛盾を見た朝でした。
選択肢が増えるほど、決まらなくなる
服を増やせば組み合わせが増える。理屈ではそうです。
実際に起きるのは逆で、判断が止まる。
似たようなものが何枚もあると、どれがいいのか比較できなくなるんですよ。
比較には基準が要る。基準がないまま数だけ増えると、選ぶ作業が苦痛になる。
その結果、いつも同じ数枚に手が伸びる。
残りは、場所を取るだけの布になります。
二十代後半は、増やしすぎた在庫を抱えている時期
学生時代から数えて、五年から十年ぶんの服が溜まっています。
体型も変わったし、行く場所も変わった。
それなのに、当時の一枚がまだハンガーにかかっている。
捨てるきっかけがないんですよ。
壊れていないし、着られなくもない。
そうやって、使わないものが静かに増えていく。
この年代でやるべきは、買うことではなく手放すこと
ここで九割九分に反対されるはずです。
二十代後半は服にお金をかける時期、いいものを揃えるべき、と。
私は言い切ります。まず半分減らす。買うのはそのあと。
去年一度も着なかったものを、床に並べる
最初にやってほしいのが、この作業です。
全部出して、去年袖を通さなかったものを床に置く。
想像より多いはずです。
私も去年やって、床が見えなくなりました(笑)
そこから半分手放したら、朝の支度が三分短くなった。
たった三分ですが、毎日でしょ。年間で十八時間です。
手放す基準は、好きかどうかではなく着たかどうか
気に入っているのに着ていない服、というのがあります。
それは、着られない理由があるということ。
合わせにくい、サイズが微妙、洗いにくい、場面がない。
気持ちで判断すると、何も減りません。
回数で判断してください。
去年ゼロ回のものは、今年もゼロ回です。ほぼ確実に。
減らしたあとに、何を残すか
褒められた記憶がある服だけ、残す
写真をさかのぼって、誰かに反応された日を探してください。
今日いいね、と言われた日。
その日の服には、共通点があるはずです。
襟の開き、袖の長さ、パンツの太さ。
自分の好みではなく、他人の反応を軸に残すものを決める。
似合う型は、自分の目より他人の目のほうが正確に知っています。
悔しいけれど、そこは認めたほうが早い。
肌に近いものほど、寿命が短い
残すか捨てるかの判断で、迷ったときの目安です。
白いTシャツは一年。襟のリブが波打った時点で終わり。
スニーカーは二年。ソールが斜めに減ったら買い替え。
デニムは三年から五年。ここは育てていい。
アウターはもっと長く着られます。
高いアウターを毎年買い替えるのに、白Tは五年目という人がいる。逆なんですよ。
減らして変わった同僚と、増やして失敗した私
三分の一に減らした後輩が、毎日同じに見えなくなった
職場の後輩に、服を半分手放してもらったことがあります。
残ったのは、たぶん元の三分の一。
本人は不安がっていました。着回せないんじゃないか、と。
結果は逆でした。
残ったものが全部似合うものだったので、どう組んでも成立する。
毎朝の選択が三十秒で終わるようになった。
そして、周りからの評価が上がったんです。
以前より枚数は少ないのに、いつもきちんとして見える。
着るものが減ったのに、印象が良くなった。彼自身が一番驚いていました。
セールで四枚買って、三枚を死蔵させた
私の失敗も書きます。
数年前、彼と行ったセールで、まとめ買いを勧めたんです。
安いから、と。
シャツを四枚、彼のカゴに入れました。
一年後、着ていたのは一枚だけでした。
残り三枚は、タグがついたまま。
安さで選ぶと、着る理由がないものが増えるんですよ。
はぁ…あのお金で、一枚いいものを買えばよかった。
買うときに、失敗を減らす手順
一枚買うなら、一枚手放す
新しいものを買う日に、古いものを一枚決めておく。
これを続けると、総量が増えません。
そして、手放すものを決める作業が、買う基準も鍛えてくれます。
これを捨てるくらいなら、あれを買わないほうがいい。
そういう判断ができるようになる。
試着室で、腕を上げて後ろを見る
買う前の確認です。
両腕を頭の上に伸ばす。脇が突っ張るなら、その一枚は毎回窮屈です。
そして、後ろ姿を鏡で見る。
背中は自分で見えないぶん、崩れやすい場所です。
肩の縫い目が落ちすぎていないか、丈が長すぎないか。
前だけ見て買うと、外の世界で一番見られている面を確認しないまま買うことになります。
減らしたクローゼットで、何が変わるか
手入れが行き届くようになる
枚数が減ると、一枚あたりに使える時間が増えます。
ブラシをかける、干し方を直す、袖口を確認する。
同じ値段の服でも、手をかけているかどうかで二年後の顔が違います。
三十枚に手をかけるのは無理でも、十枚なら続く。
続く量にしておくことが、結果的に一番きれいな状態を保ちます。
自分の型が見えてくる
残ったものを並べると、傾向が見えます。
似たような襟、似たような色、似たような丈。
それが、あなたに合っている形です。
その型が分かると、店で迷わなくなる。
新しいものを見ても、自分の型に入るかどうかで判断できる。
服を増やしても、垢抜けはしません。
週末に全部出して、去年着なかったものを床に並べる。
その山を見た瞬間、たぶん買い物の仕方が変わります。
