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40代のビジネスバッグは自立するかで決まる

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会議室の床に置かれた鞄が、勝手にしゃべっていた

名刺交換が終わって、全員が椅子を引く。あの数秒間、私はいつも机の脚のあたりを見てしまいます。悪趣味だとは思う。でも、やめられない。
その日、向かいに座った四十代の課長さんが置いた鞄が、くたっと横に倒れました。中身が偏っているのか、口が半分開いたまま。書類の角が飛び出していて、誰も何も言わない。
胸のあたりが、なぜかざわっとした。
話の内容はしっかりしていたんです。数字にも強かった。それなのに、私の頭には倒れた鞄しか残らなかった。

ビジネスバッグを四十代で買い替えようとしている人は、たぶん相応しさを探している。若作りに見えないか、安っぽく見えないか、部下より格下に見えないか。検索窓に打ち込む言葉の裏にあるのは、だいたいそこでしょ。
だけど、女の側が最初に見ているのは素材でもブランドでもありません。置いたときに、まっすぐ立つかどうか。
だから言い切ります。四十代の鞄選びは、十万円の革より、二万円台で自立するナイロンのほうが勝つ場面がある。

倒れた鞄が、四十代だけ致命傷になる理由

二十代なら、床にどさっと置いても青さで済むんですよ。まだ荷物に振り回されている年齢だから。
四十代でそれをやると、印象が変わる。管理できていない人、という一枚の絵になってしまう。
本人にとっては鞄の話。見ている側にとっては、その人の仕事の回り方の話。理不尽だけど、そういうふうに見られています。

相応しさの正体は、値札ではなかった

高い鞄を持っていても評価が上がらない人を、私は何人も見てきました。
理由は単純で、手入れが追いついていないから。角が白くはげた革、伸びきった持ち手、艶の消えた金具。値段が高いほど、傷みは目立ちます。新品のときが頂点で、あとは下るだけ。
一方、丁寧に使われたナイロンは、そこそこきれいなまま三年もつ。清潔さでいえば、後者が勝ってしまう。

革を買えば解決する、という思い込み

四十代になったら本革。この呪いみたいな決まりごと、そろそろ手放していいと思っています。
革が似合うのは、革の面倒を見る余力がある人。雨の日に慌てて拭ける人、月に一度クリームを塗れる人、電車で角をぶつけないよう気を配れる人。
毎朝コンビニのコーヒー片手に走っている人が持つと、革は一年で疲れた顔をします。

雨の日に、その人の判断が出る

ゲリラ豪雨の夕方でした。駅前で、革のブリーフケースを腕で抱え込むように守って走る男性を見かけたんです。
コートは濡れ放題。鞄だけ死守。
(守る順番、それでいいのかな)
本人は必死だったと思う。でも、傍から見ると、道具に振り回されている姿でした。
撥水のナイロンなら、ばさっと払って終わり。中のノートPCも無事。守るべきものが守れているほうが、大人に見えます。

それでも革を選ぶなら、ここを妥協しない

金融、士業、役員フロアに出入りする立場なら、革のほうが空気に合う場面は確かにある。その場合は、底に鋲がついているものを選んでほしい。四つの点で床から浮くだけで、傷み方がまるで変わります。
そして自立するかどうか。店頭で床に置かせてもらって、手を離してみる。ぐにゃっと折れるものは、どれだけ質のいい革でも、五年後に持ち主を疲れさせます。

中身を半分にしないと、何を買っても同じ結果になる

新しい鞄を買った翌週、荷物をそのまま全部移し替えて、またパンパンにしている人。とても多い。
鞄の型が崩れる最大の原因は、雨でも経年でもなく、詰め込みです。マチが十センチしかないものに、十五センチ分を入れれば、当然膨らむ。膨らんだ状態で毎日通勤すれば、縫い目が引っぱられて戻らなくなる。
ぱんぱんの鞄は、余白のなさに見えるんですよ。段取りが悪そう、いつも慌ただしそう、そういう空気を勝手にまとってしまう。

荷物を減らした上司が、なぜか若返った話

以前いた職場に、四十六歳の部長がいました。
黒い大きめの鞄に、書類、iPad、モバイルバッテリー三個、折り畳み傘二本、常備薬、なぜか靴べら。ずしっと重くて、社内で誰も持ち上げられないというネタになっていた。
その人が、ある時期から急に身軽になったんです。奥さんに何か言われたのかな、と皆で噂した。
使っていたのは、薄手で自立する濃紺のナイロン。書類はほぼクラウド、傘は一本、バッテリーも一つ。
歩き方が変わりました。肩が下がって、階段を上がるスピードが上がって、会話の合間の間が長くなった。
若手の女の子が言っていました。部長、最近ちょっと素敵になりましたよね、と。
鞄を軽くしただけ。それだけで、人は余裕のある人に見えます。

贈って失敗した鞄の話をします

四十歳の誕生日に、当時の相手へ鞄を贈ったことがあります。
栃木レザーの、しっかりした一点物。財布が軽くなるくらいの金額でした。革の匂いを嗅いだ瞬間、我ながらいい買い物をしたと思った。
結果、彼はほとんど使わなかった。
理由を聞いたら、重いから、と。空の状態で一・六キロあったんです。そこにノートPCが一・四キロ。往復二時間の通勤で、毎日三キロを肩に乗せる生活。無理でした。
はぁ…。デザインばかり見て、量りに乗せる発想がなかった自分が情けなかった。
あの一件から、私は鞄を見るとまず重さの表示を探すようになりました。四十代の身体には、空で一キロ前後が現実的なライン。それ以上は、腰か肩のどちらかが先に音を上げます。

買う前に確かめておく数字

A4のクリアファイルが、無理なく入る横幅。十五インチのPCを入れるなら、内寸で三十五センチ以上。マチは八から十二センチあたりが、膨らまず、痩せて見えず、ちょうどいい落としどころ。
ショルダーベルトは外せるタイプを。付けっぱなしの金具が革を削るし、かちゃかちゃ鳴る音は、静かな会議室でけっこう響きます。

リュックはあり、ただし条件つき

四十代のリュック通勤に否定的な人は多いけれど、私は反対しません。腰が痛い、荷物が重い、自転車に乗る。事情があるでしょ。
問題は背負い方のほうです。

満員電車で背負ったままの人は、そこで終わる

どんなに仕立てのいいリュックでも、混んだ車内で人にぶつけていたら意味がない。逆に、乗る前にすっと下ろして足元に置く人は、鞄がどれだけ安物でもきちんとして見えます。
女は所作を見ている。ここ、驚くほど正確に見ています。

三通りに持てるものを一つ持つ

手提げ、肩掛け、背負い。この三役を兼ねるタイプが、四十代の生活には合いやすい。
朝は背負って駅まで、商談の前に肩ベルトを外して手提げに、帰りは片手が空くように肩へ。場面ごとに姿を変えられると、それだけで対応力のある人に見えるから不思議です。
ただし、背中のベルトが外側にだらんと垂れる作りのものは避けたほうがいい。手に持ったとき、後ろで揺れているあの紐、想像以上に間が抜けて見えます。

色と金具、細かいところに年齢が出る

黒は無難だけれど、四十代が黒一色を持つと、少し重く沈むことがある。特に、スーツも黒っぽい人。
濃紺、チャコール、深いグレージュ。この三色は、清潔さを保ちながら柔らかさが出ます。
茶系は難易度が上がる。靴とベルトの色を合わせる余裕がある人だけ手を出せばいい話。

引き手と、底の四隅を見てほしい

中古感が一番出るのは、ファスナーの引き手です。メッキがはげてまだらになった金具は、遠目にも古びて見える。安いものでも、引き手が革やマットな金属のものを選ぶと、二年後の顔つきが違ってきます。
それから底の四隅。ここが白くこすれ始めたら、買い替えの合図。持ち主だけが気づかず、周りは全員気づいている場所です。

どんな鞄を持つかで、その人の全部が決まるとは思っていません。仕事の中身のほうが、比べものにならないくらい大切でしょ。
それでも、椅子を引いたあの数秒。床に置かれた鞄がすっと立って、口がきちんと閉じているだけで、話を聞く姿勢がほんの少し変わってしまう。
明日の朝、玄関で一度だけ、自分の鞄を床に置いて手を離してみてください。まっすぐ立ったなら、それはまだ現役です。

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