後輩の背中を見て、私は口をつぐんだ
金曜のオフィス。私服可の日でした。
斜め前の席に座った後輩が、グレーのパーカーの下から白いシャツの襟を出していました。きれいに整えて、両側とも同じ角度で。
本人はたぶん、手をかけたつもり。実際、鏡の前で調整してきたんだと思います。
けれど、フードの下から立ち上がった襟が、首のうしろで押し合っていた。フードの布と、シャツの襟と、二枚が同じ場所を取り合って、どちらも中途半端に潰れている。
首が、短く見えました。
惜しい…ほんとに、あと一歩なのに
言おうかどうか、コーヒーを飲みながら三十秒くらい迷って、結局やめました。指摘するには近すぎる距離だった。
シャツとパーカーの重ね着を調べる人が知りたいのは、たぶん、どう合わせたら子どもっぽくならないか。パーカーは楽だけど部屋着に見える、シャツを足せば大人になるはず。そういう計算でしょ。
方向は合っています。ただし、足す場所を間違えると全部が崩れる。
言い切ります。パーカーの下にシャツを着るなら、襟は絶対に出さないほうがいい。襟を覗かせるのが定番だと思っている人、百人中九十九人。私はここだけは譲れません。
フードと襟は、同じ場所を奪い合う
パーカーの首元には、すでにフードという厚みがあります。
そこにシャツの襟を重ねると、首の後ろに二層の布が乗る。物理的に、首が埋まります。
しかも、フードが襟を押さえつけるので、襟の形が保てない。片側だけ折れたり、内側に巻き込まれたり。ずっときれいでいられないんですよ。
何度も直す羽目になって、その仕草がまた落ち着かなく見える。
出すなら、裾と袖
じゃあシャツを着る意味がないかというと、逆です。
出す場所を、上から下に変えるだけでいい。
パーカーの裾から、シャツの裾を三センチほど覗かせる。袖口から、カフスを一センチ。
これだけで、上下に横のラインが二本入って、重ね着をしていることが伝わります。首元は静かなまま。
胸のあたりが、すっと軽くなる配置です。
裾を出すときの、たった一つの寸法
何センチ出すか。ここで印象が分かれます。
三センチが上限、それ以上は緩む
一センチだと、シャツが入っているのか出ているのかわからない。
五センチを超えると、ただ丈が合っていないだけに見えます。慌てて着替えてきた人。
二から三センチ。パーカーの裾のリブの下に、シャツの裾がすっと現れる感じ。
シャツの裾は、丸くカーブしているタイプより、まっすぐ横に切れているタイプのほうがきれいに出ます。カーブが深いと、脇のところだけ長く垂れて、左右が不揃いに見えるので。
色は、はっきり分ける
グレーのパーカーに、グレーのシャツ。これは何も起きません。境目が消えて、ただ裾がもたついているだけになる。
濃い色のパーカーには、白かオフホワイト。明るいパーカーには、紺かグレー。
コントラストがあるほど、意図が伝わります。偶然じゃなくて選んだんだ、という気配。
ジップアップか、かぶりか
ここで扱い方がまったく変わります。
かぶりタイプは、シャツを見せる面積が限られる
プルオーバーは前身頃が閉じているので、見せられるのは裾と袖だけ。
そのぶん、シャツの色選びが効いてきます。ちらっと見える部分にしか情報がないので。
胸元にポケットのあるタイプは、そこに視線が集まって重ね着の印象が薄れることも。無地でシンプルなもののほうが、下のシャツが生きます。
ジップなら、シャツを主役にできる
前が開くタイプは、話が変わります。シャツを閉じたまま、パーカーを羽織りものとして使える。
この場合、シャツのボタンは上から二つ目まで開けて、パーカーのジップはみぞおちのあたりまで。
胸元に三角が二重にできて、縦の線が強調されます。
ただし、この着方をするときはシャツの襟がしっかり立つものを。ここでもまた襟の話になってしまう。へたった襟は、開けた胸元で全部ばれます。
私が地味に見ている、袖のこと
重ね着で意外と差が出るのが、袖口です。
一センチだけ、白が出る
パーカーの袖のリブから、シャツのカフスがわずかに覗く。
手を動かすたびに、その一センチが目に入るんですよ。書類を渡すとき、グラスを持ち上げるとき。
なぜだか、そこに丁寧さを感じてしまいます。全身のどこよりも、手元が近くで見られているからかもしれない。
逆に、シャツの袖が五センチも飛び出していると、サイズが合っていないだけに見える。この差は本当に紙一重。
腕まくりは、パーカー側だけ
両方まくると、二重の布が腕に溜まって太く見えます。
パーカーの袖を軽く押し上げて、シャツはそのまま。あるいは、シャツを先に折ってからパーカーを下ろす。
どちらにしても、腕に段差を作らないこと。ごわっとした塊があると、そこで視線が止まってしまう。
元同僚が、金曜だけ別人だった話
以前の職場に、平日はスーツ、金曜だけ私服という人がいました。四十代前半。
その金曜の格好が、毎回同じでした。紺のパーカーに、白いシャツ、細めのパンツ。
最初は、代わり映えしないなと思っていたんです。
でもある日、女性陣で話していたら、全員が同じことを言い出しました。あの人、金曜がいちばんいいよね、と。
理由を考えてみて、気づいたんです。彼、シャツの襟を出していなかった。裾だけ、二センチくらい。
それと、パーカーのサイズが体に合っていた。だぼっとしていない。かといって張りついてもいない。
本人に聞いたら、店員さんに全部決めてもらったと言っていました(笑)。自分では選べないから、同じものを二着買ったと。
その割り切り方、私はけっこう好きです。似合うと言われたものを、素直に着続ける。それだけで印象は積み上がっていく。
逆に、私が残念に思った例
別の人は、シャツの裾を全部出していました。パーカーの下から十センチくらい。
本人はレイヤードのつもり。でも遠目には、シャツを入れ忘れているように見えるんです。
おしゃれと、だらしなさの境目は、たぶん数センチしかない。その数センチを毎朝守れるかどうか、という話なんだと思う。
サイズが合っていないと、全部が崩れる
どんなに配置を工夫しても、ここが外れていたら意味がありません。
パーカーは、大きすぎると下が消える
オーバーサイズが流行った時期があって、今も好んで着る人は多い。
ただ、下にシャツを重ねる場合は話が別。パーカーが大きいと、シャツの裾がその中で泳いで、出したり隠れたりを繰り返します。
歩いているうちに片側だけ出て、左右がずれる。あれは自分では見えないんですよね。
肩が落ちすぎず、身幅にこぶし一つぶんの余裕。この範囲なら、下のシャツが動きません。
シャツは、薄手を選ぶ
オックスフォード地の厚いシャツをパーカーの下に着ると、腕まわりがごろつきます。
ブロードや、薄手のコットン。上に何か着る前提のシャツは、薄さで選ぶ。
これ、単独で着るときの基準とは真逆なので、意外と見落とされています。
年齢が上がるほど、首元は静かに
最後に、ひとつだけ。
詰まった首元は、顔を大きく見せる
四十を過ぎると、顎から首にかけての線が少しずつ変わります。
そこにフードの厚みと襟が重なると、顔だけが上に乗っているように見えてしまう。
首元をすっきりさせて、鎖骨のあたりに余白を作る。そのほうが顔が小さく見えるし、涼しげに映る。
はぁ…。私も自分の写真を見返して、首の詰まった服ばかり着ていた時期を反省しました。あれは誰も教えてくれない(泣)。
フードは、きちんと外へ出す
コートやジャケットの下にパーカーを着るとき、フードを内側に押し込む人がいます。
背中に不自然な膨らみができて、猫背に見える。
フードは外へ出して、襟の上に自然に乗せる。少しくしゃっとしていていい。整えすぎないほうが、かえって様になります。
シャツとパーカーは、どちらも一枚だと何も語らない服です。
重ねた瞬間に、その人の判断が出る。どこを見せて、どこを隠すか。
明日の朝、パーカーを着る前にシャツの襟を触ってみてください。出したくなったら、その手を止めて、裾のほうへ回してみて。
