付き合いはじめたばかりの秋、終電近くの電車で寝落ちしたことがあります。
気づいたときには、隣に座る彼の肩に、頭をすっかり預けていました。
彼が着ていたのは、ネイビーのスエット。
降りる駅の手前で目を覚ましたら、ほっぺにスエットの縫い目の跡がくっきり(泣)
あわてて頬をこする私を見て、彼は肩を揺らして笑っていた。
あの夜、ジャケット姿の男性が隣だったら、私はたぶん眠れなかった。
硬い肩パッドには、頭を預ける勇気が出ないもの。
スエットの肩は、女性がもたれたくなる、いちばん近い場所なんです。
あの縫い目の跡は、私の中でちょっとした勲章みたいなもの。
スエットはデートで着るな、という声は今も根強い。
部屋着っぽい、手抜きに見える、だらしない。
でもそれは、くたびれたスエットに貼られたレッテルにすぎません。
首と袖と裾、三つのリブさえへたっていなければ、スエットはデートにこそ着ていい服。
ほっぺに縫い目の跡をつけた女が、本気で言い切ります。
スエットは、女性がデートでもたれたくなる服
ジャケットの肩には、頭を預けにくい
女性が男性の服を見るとき、実は目だけじゃなく、肌でも感じ取っています。
この人の隣は、さわり心地がよさそうか。
肩にもたれたら、ごわっと硬いのか、ふかっとやわらかいのか。
ジャケットの肩は、きちんとしているぶん、どこか触れてはいけない壁に見えるの。
その点、厚手のスエットはまるで毛布のよう。
映画館の暗がりや、帰りの電車で、つい頭を預けたくなってしまう。
もうひとつ、女性がひそかに思い描くのが、彼のスエットを借りる場面。
寒い日に袖を引っぱって、「それ、貸して」とねだる。
ぶかぶかの袖口から指先だけを出して、ふわっと彼の匂いに包まれる…。
正直言って、女性のほうが、スエットの男性に勝手な物語を重ねているんです。
デートにスエットはNG、と言われてしまう理由
それでも、スエットがデートのNG服に名を連ねるのには、ちゃんと理由があります。
数年前、古本屋めぐりのデートで会った男性のことを思い出す。
彼が着ていたのは、色の抜けかけたグレーのスエット。
首元のリブは波を打ち、袖口は伸びきって手首でだらりと垂れていました。
高い棚の本に手を伸ばした、その瞬間。
脇の下に、濃いグレーの汗じみがじわりと広がっているのが見えてしまったの。
(このスエット、きっと寝間着も兼ねてる…)
本の背表紙を眺めるふりをしながら、私の目は何度もその汗じみに戻っていく。
話しかけられても、相づちが半拍ずつ遅れていったのを覚えています。
デートでスエットがNG扱いされるのは、こういうくたびれた一枚のせい。
スエットという服が悪いわけじゃない。
問題は、首と袖と裾のリブが、部屋着の年季を正直に語ってしまうことなのよ。
首のリブで、スエットの鮮度は決まる
首元が波打ったら、デートには連れていかない
スエットの鮮度を、いちばん正直に映すのが首のリブ。
リブとは、首まわりや袖口、裾に使われる、伸び縮みする編み地のこと。
洗濯と着脱をくり返すうちに、ここがゆるんで波打ってくるんです。
向かい合って座ると、女性の目線はちょうど首元のあたり。
波打った首元は、遠くからだと気づかなくても、テーブル越しだと丸見えなの。
首元から肌着の襟までのぞくと、休日の朝のソファが目に浮かんでしまう。
鏡の前で、首のリブが肌にぴたりと沿っているか確かめてみて。
浮いて波打っていたら、それは部屋着に格下げのサイン。
デートの日は、首元がきゅっと締まった一枚だけを連れていってね。
Vガゼットのあるスエットは、首元が崩れにくい
首元の前側に、V字の小さなリブが縫いこまれたスエットを見たことがあるでしょ。
あれは、Vガゼットと呼ばれるパーツ。
首まわりの伸びを防いだり、汗を受け止めたりするためのものと言われています。
このV字があるだけで、首元にきりっとした表情が生まれるの。
クラシックな雰囲気が出るから、大人のスエットにはうってつけ。
襟ぐりの詰まり具合は、鎖骨のくぼみが少し隠れるくらいがきれいです。
首の開きが大きいと、肌着がのぞいて一気に生活感が出てしまう。
首のリブを守る、洗い方と干し方
首のリブを長持ちさせるには、洗濯の仕方がものを言います。
洗うときは裏返して、ネットに入れる。
乾燥機は、綿のスエットを縮ませるいちばんの原因なので避けて。
干すときにハンガーへ掛けると、水を吸った重みで首元と肩がのびてしまう。
物干しざおに胴の部分を二つ折りでかけるか、平らに広げて乾かすのが安心。
しまうときも、ハンガーより、たたんで引き出しへ。
ほんのひと手間で、首元の締まりがひと冬もつかどうかが変わるの。
袖口のリブで、手元の印象が変わる
袖をまくるなら、リブを伸ばさず押し上げる
スエットの袖をまくった男性の前腕に、目を奪われる女性は少なくありません。
ただ、ぐいっと引っぱり上げてまくると、袖口のリブがすぐにのびてしまう。
一度のびたリブは、洗っても元には戻らないの。
まくるときは、袖を手首から肘のほうへ、くしゅっと押し上げるように。
リブが前腕の途中でとどまって、ほどよいたるみが生まれます。
袖口を指でつまんで、肘の少し下で止めるくらいがちょうどいい。
カフェで頬づえをついたときに、そのたるんだ袖口がのぞくと、かなりずるい。
手首でゆるんで広がった袖口は、どうしても疲れた印象になるのよね。
袖丈は、手の甲にかからない長さを
袖丈は、腕をおろしたときに手首の骨がぎりぎり隠れるくらい。
手の甲まですっぽり覆う長さは、大人の男性だと少し幼く見えてしまう。
いわゆる萌え袖ってさ、女性がやるからかわいいの(笑)
オーバーサイズを選ぶなら、身幅がゆったりでも、袖だけは長すぎないものを。
袖が長すぎるときは、お直しで袖口のリブを付け替えてもらう方法もあります。
手元がすっきりすると、時計やブレスレットもちゃんと主役になれるんです。
裾のリブと生地の厚みで、シルエットの大人度が決まる
裾がお腹に食いこむサイズは選ばない
意外と見落とされがちなのが、裾のリブ。
サイズが小さいと、裾のリブがお腹にぎゅっと食いこむの。
その上で生地がぽこっとふくらんで、まるで腹巻きを重ねたような姿に。
立ったときに、裾のリブが腰骨のあたりに軽く乗るくらいが正解。
リブが体を締めつけず、生地がまっすぐ落ちていれば、それだけで大人っぽい。
座ったときに、背中側の裾がずり上がって腰が見えないかも、試着室で確かめておいて。
女性は、隣に座った男性の背中から腰のあたりを、案外よく見ているから。
中に白いTシャツをのぞかせるなら、1センチだけ
スエットの裾から白いTシャツをのぞかせる重ね着は、手軽に今っぽく見える技。
ただし、のぞかせるのは1センチから2センチまで!
長すぎると、ただ肌着がはみ出しているように見えてしまうの。
首元からも白をちらりと見せると、顔まわりがぱっと明るくなる。
中のTシャツが汗を吸ってくれるから、スエットそのものも長持ちするんです。
マジで、一枚重ねるかどうかで、スエットの寿命が変わるから。
生地は、持ち上げてずっしり重いものを
スエット、トレーナーとも呼ばれるこの服の生地は、大きく分けて二種類。
裏側がループ状の裏毛と、ふんわり起毛させた裏起毛です。
秋口や室内のデートなら裏毛、真冬の屋外なら裏起毛が頼りになる。
どちらを選ぶにしても、店頭で一度持ち上げてみて。
手のひらにずしっと重みがくる厚手なら、生地が体の線を拾わず、まっすぐ落ちてくれるの。
薄いスエットは、お腹や背中の段差をそのまま写してしまう。
女性がもたれたくなる、あの毛布のような肩も、厚みがあってこそなんです。
女性がもたれたくなる、メンズのスエットコーデ
生成りのスエットに、ネイビーのスラックス
デートで女性ウケを狙うなら、まずは生成りのスエット。
真っ白より少しクリームがかった色で、顔色をやわらかく見せてくれます。
合わせるのは、ネイビーのスラックスと、茶色のローファー。
スエットのゆるさを、足元のきちんと感がほどよく受け止めてくれるの。
首元に白いTシャツを少し重ねると、生成りとのグラデーションがやさしい。
生成りは汚れが目立ちやすいから、ミートソースのパスタだけは避けてね(笑)
そのやわらかい色に、つい肩を寄せたくなる女性は多いはず。
ネイビーのスエットに、ベージュのチノと白いスニーカー
歩く距離の長いデートなら、ネイビーのスエットが頼りになります。
下はベージュのチノパンで、足元は白い革のスニーカー。
紺とベージュと白、三色だけでまとまるから、子どもっぽく見えません。
バッグは、小ぶりの革のショルダーをひとつ。
少し冷える日は、上からステンカラーコートを羽織るだけで、ぐっと大人の休日になる。
終電で私がもたれて眠った夜の彼も、まさにこの組み合わせでした。
グレーのスエットは、汗じみ対策をしてから
スエットの定番色といえば、グレー。
けれど、明るいグレーは汗を吸うと色が濃く変わって、しみが目立ちやすい。
古本屋の彼の姿を思い出すと、今でも少し背筋がひやっとするの。
グレーを選ぶなら、汗じみが出にくいチャコールの濃いめを。
明るいグレーが好きなら、中にTシャツを一枚重ねて、汗を受け止めてもらうこと。
制汗剤は、着る前に肌の上でしっかり乾かしておいて。
洗濯のたびに脇の部分を部分洗いしておくと、汗の黄ばみも残りにくいの。
スエットを替えただけの男性に起きたこと
プラネタリウムで、右肩に落ちてきた重み
ボルダリングジムで知り合った、二つ年下の男性がいます。
練習のあとはいつも、首元の伸びきったグレーのスエット姿。
デートに何を着ていけばいいか相談されたとき、私は迷わずスエットを指さしました。
え、デートにスエット?と目を丸くする彼に、条件を三つだけ伝えて。
首元の詰まった厚手の一枚を新しく買うこと。
色は生成りにすること。
袖は引っぱらず、手首から押し上げるだけ。
デートの行き先は、プラネタリウムだったそう。
背もたれが深く倒れるシートで、星の解説を聞いていたときのこと。
突然、右肩にとん、と小さな重みが落ちてきたんだって。
隣の彼女が、彼のスエットの肩にもたれて眠っていたらしいの。
(それ、私も知ってるやつ…)
上映が終わって目を覚ました彼女は、あわててほっぺをこすっていたんだとか。
その話を聞いた瞬間、スマホを握ったまま吹き出しちゃった。
まさか、私とまったく同じことが起きるなんてね!
スエットは、隣にいる人のための服
スエットは、楽をするための服だと思われがち。
でも本当は、隣にいる人が楽になれる服なんです。
ジャケットは、着ている本人を立派に見せるための服。
スエットは、そばにいる人をくつろがせるための服。
肩にもたれても、ごつごつしない。
寒い日には、そのまま貸してもらえる。
その気安さこそが、女性の心をふっとほどいていくの。
結局、デートでスエットを着るかどうかより、どんなスエットを着るかなんだよね。
首と袖と裾のリブに、くたびれた年季がにじんでいないか。
そこさえ整っていれば、スエットはジャケットより、ずっと女性に近い服になる。
